コラムcolumn

2023.3.08中国遊学日記 ②中国での日本料理屋に対して

2007年ごろに県書道にて掲載していた留学体験記の再掲となります。

 

 

 誰でも、自分の生まれた国のご飯がどこの国のご飯よりも体に馴染んで最も好むものに違いないと思う。

 僕は大学を卒業してからの4年間をほとんど海外で生活している。耳障りはよく聞こえるが実際にはストレスを感じる事も多々あり、僕にとってはそんなにいいものではない。

 食に関して繊細な部分を持ち合わせている僕とって、ご飯が「うまい」「うまくない」「まずくない」「まずい」は重要なポイントであり、特に自国の日本料理に対しては過剰なくらい敏感になってしまう。日本料理が「うまい」ことは僕にとっての生命線なのである。

 そこで、今回は中国での日本料理屋に一言、二言ほど物申し鬱憤を晴らしたいと思う。

 

北京の場合

 北京で僕が日本料理をよく食べに行く店は、2店しかなかった。なぜかというと、僕が住んでいる場所から雑誌に載っているような店に行こうとすれば、移動時間だけで1時間近く費やしてしまうからだ。1時間かけて入った店が「まずい」という感想だと、帰路での脱落感はホームシックに直結してしまう。なので、学校の近くにあるモンゴル人が調理してくれるお店と、タクシーで30分かかる名店にしか行く選択肢がなかった。

 他の店に行かなくなった理由は他にもある。値段が高い店がそれなりに「うまい」というのは当たり前の話で、そこそこ値段をとるくせに「うまくない」店には「まずい」店よりも怒りを感じる。そういう店に限って食べ・飲み放題の店で、これに対してはなにか心の奥底に眠るいやらしさを感じる。食べ放題飲み放題だから文句は言えまいと思っているのだ。

 メニューをみると揚げ物と粉物が中心である。腹だけ満たして帰らそうと考えているのだろう。お刺身などもあるが、注文をしてみるとお刺身の横にはバラエティー番組で出てくる罰ゲームのような量のわさび。僕に罰を与えているとしか思えない。そうなるとお刺身の新鮮さとか以前に食べる気をなくしてしまうのである。もちろんお刺身に新鮮さはない。一番新鮮なのは盛り付けのしその葉くらいだろう。

 焼き鳥はどこにいっても同じ味がする。冷凍食品の方が確実に「まずくない」のだ。こう言うと作っている側がかわいそうになってくるがもはや罪である。

 今述べたようなものを出すお店は大体が140元程度のお店であるが、相場からすると高くはなく、かと言って安くもない。システムの面で日本の食べ・飲み放題のお店との違いは時間制限がないことだろう。正真正銘「食べ放題飲み放題」なのだ。いらぬお世話である証拠に「うまい」店にそんなシステムはない。酒飲みにしてみたら楽園のようなシステムかもしれないが、飲まない人にとっては地獄だろう。飲めるものも炭酸飲料くらいしかない。

 そのせいか、「まずい」店に日本人は皆無で中国人ばかりがにぎわっている。「うまくない」「まずくない」店には日本人・中国人半々の割合で、「うまい」店は値段が跳ね上がる上に食べ・飲み放題ではないためか中国人はほんの1割程度。日本人、欧米人が大半を占めている。

 写真つきのメニューがある店ほど質が悪い。どうしても写真を見て視覚的に期待してしまうことがあるのだが、十中八九裏切られる。作り手も調理法を知らずに写真を見ただけで作っているのかもしれないが、それでは本当の味には近づけない。

 確かに質が悪いと分かり切っているお店に期待を持つのは愚かだろうが、それでも一握りの希望くらいは持ってもいいはずである。

 これは北京に限らず言えることなのだが、どうも調理法が間違えて伝わっているとしか思えない料理を出される場合が多々ある。ある店のカツ丼は、とんかつをソースで煮たために真っ黒になって出てきた。百歩譲って、ごはんに乗せたとんかつにソースをかけて出すのならわかる。見た目だけ似せようとして作ったのがわかるが、それにしたって見た目もかけ離れている。カツ丼の醍醐味をまずわかって欲しいところである。

 この点では、モンゴル人が経営しているお店はこぢんまりとしているが、カツ丼の醍醐味である「卵トロットロ」がよく理解されているし、焼き鳥も塩・タレと選べる。値段はたらふく飲んで食べても80元くらいだった。

 ということで北京では、新しい店の開拓をめんどうくさく思うようになり、結果先ほど述べた2店に絞らざるをえなくなったわけだ。

 

上海の場合

 上海は北京に比べるとすべての店の質が高い。とはいっても、「まずい」店が少ないということだけのことだが。

 話は少し変わるが、上海にはコンビニのローソンやファミリーマートが多くある。そこでは日本人おなじみの太巻きやいなりずしなども売っているのだがこれがまた笑わせてくれる。太巻きの具は野菜スティックのように太い人参、卵の変わりに大根の漬物、きゅうりにとびっ子だ。いなりずしの酢飯はサラダマヨネーズ味である。どんなに飢えていても食べる気がしない代物であるし買い求めている人も見たことがない、が未だ改善されずに売られている。日本発のコンビニなのだから商品開発部も少し考えて欲しいところだ。

 上海でよく行っているお店は、食べ・飲み放題で150元程度のお店だ。北京での生活があって許容範囲が広がっているのかもしれないが、「まずくない」許せる程度のお店である。上海では北京に比べて天婦羅の出来具合が良いように思うし、麺類などもそこそこの出来だ。

 そのお店で僕が思いついた料理は、豪華版天ざるだ。もともとメニューの中に天ざるはあるのだが、それを頼むと玉ねぎが多く色合いのないものが出てくるので食の楽しみが薄れてしまう。そこで、食べ放題の利点を最大限に活用して、海老の天婦羅盛り合わせとざるそばを別個に頼み、これらを合わせてしまうのだ。普通に頼むよりも豪華で少し得した感じがするため、〆に食べるのはこの二つと決めている。

 上海での悪口を考えたのだが、納豆が解凍されないまま出てきて納豆カキ氷を食べているみたいだった以外に、北京以上の不満は出てこなかった。もちろん日本と比べるとかわいそうな評価になるのでそれはしない。本当に満足できる日本料理屋は少ないということだ。しかし、これは日本料理屋がまったくない国にいた頃に比べれば本当に贅沢な問題である。

 

 現状中国にはかなりの数の日本料理屋があり、焼肉にしても日本式焼肉を謳っているお店をよく見かけるが、安易に日本料理の評価を下げる行為は控えてほしいものだ。

 余談だが、厦門での日本料理屋では醤油瓶から虫が出てくるし、お好み焼きはソースの味よりもホットケーキの味がする。

 

 今こうして執筆している最中も日本料理を食べたくなるのだが、身も蓋もないことを言ってしまうと中国においては自分で作った方が「うまい」ので、これからカツ丼を作る準備をしようと思う。

 ではまた次回に。再見!

 text= 西本皆文堂
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